COLUMN
腸美容ラボ

2026.08.31

マラソン中の“お腹トラブル”はなぜ起きる?ランナーのための腸トラブル対策

ランナーのための腸トラブル対策
監修医 小林弘幸先生
小林 弘幸監修医

順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”。自律神経と腸を整える健康法を提案し、『やせる!整う!若返る!腸ストレッチ』など著書・メディア出演も多数。

監修医プロフィールを見る

—血流・振動・自律神経。3つの原因を知れば、走る中の腸トラブルは防げるかもしれません

「競技中、急にお腹が痛くなって走れなくなった」「練習のたびにトイレに駆け込んでしまう」——ランニングをしている方なら、一度はこうした経験があるのではないでしょうか。マラソン界のレジェンド、ビル・ロジャースの「マラソンの勝敗は、夕食の席よりも仮設トイレで決まる」という言葉があるように、持久系アスリート、特に長距離ランナーにとって一般的な悩みであることがわかります。アスリートの30〜50%が何らかの消化器症状を経験するとされ、特にランナーは自転車競技や水泳の選手に比べて腸トラブルが起きやすい傾向にあると報告されています※1。気合や体力不足の問題ではなく、体の仕組みとして起こりやすい現象だと言えます。

この記事の結論
ランナーの腸トラブルは、①内臓の血流低下、②走る振動とお腹の圧迫、③自律神経の乱れという3つの要因が重なって起こる、体の自然な反応です。食事・競技中のケアに加えて、自律神経を整える腸ストレッチを取り入れることで、腸トラブルに悩まされにくい体づくりが可能です。

「ランナー下痢」に悩むのはあなただけじゃない

結論
ランナーの腸トラブルは珍しいことではなく、持久系アスリートの30〜50%が経験するとされる、体の仕組みとして起こりやすい現象です。

マラソンやランニングを続けていると、「レース本番になると決まってお腹を壊す」「距離を伸ばした練習の後は必ずトイレに駆け込む」という経験をしたことがある方は少なくないはずです。長距離走を対象にした調査では、競技中に約9割の参加者が何らかの消化器症状を報告し、そのうち嘔吐や下痢といった症状も一定数含まれていたという報告もあります※2

こうしたデータからもわかるように、ランナーの腸トラブルは特別なことではなく、体を極限まで使う運動であるがゆえに起こりやすい、いわば「ランニングにつきものの反応」と言えます。まずはその原因を正しく理解することが、対策の第一歩になります。

あわせて読みたい腸壁とバリア機能の仕組み|腸漏れとは?

走ると腸が悪さをする3つの理由

結論
ランナーの腸トラブルには、①内臓の血流低下、②走る振動とお腹の圧迫、③自律神経の乱れという3つの理由が関わっていると考えられています。

「なぜ走るとお腹の調子が悪くなるのか」については、単一の原因ではなく、複数の要因が重なって起こると考えられています。ここでは代表的な3つの原因を、それぞれ順番に見ていきましょう。

2-1. 原因①:腸への血流が一時的に減ってしまう

運動をすると、体は筋肉や心肺に優先的に血液を送ろうとします。そのため、消化を担う腸への血流は一時的に大きく減少します。ある実験によると、運動強度が上がるほどこの減少幅は大きくなり、平常時と比較して腸に送られる血液は約半分になったと報告されています※3。血流が不足した腸は一時的な腸漏れの状態となり、炎症物質が血流に流れ込んだり、水分の吸収障害を招いたりします。それが下痢や腹痛の起こりやすい主な原因と考えられています。

2-2. 原因②:走る振動とお腹の圧迫

着地のたびに腸が繰り返し上下に揺さぶられる「物理的な振動」も、腸への負担になります。長距離走は自転車や水泳に比べて上下動が大きく、実際に同じ運動強度でサイクリングとランニングを比較した実験では、腸漏れの進行や食べ物の腸の通過時間の延長が、サイクリングよりもランニングで顕著に見られたと報告されています※4。加えて、締め付けの強いウェアやウエストポーチ、前かがみの姿勢による腹部への圧迫も、腸の動きを妨げる要因になります。

2-3. 原因③:自律神経が「戦闘モード」になる

運動中は交感神経が優位になり、消化・吸収を担う副交感神経(休息モード)の働きが抑えられます。腸はもともと副交感神経が優位なときに活発に動く臓器のため、運動中に交感神経優位の「戦闘モード」が続くと、腸の働きが低下したり乱れやすくなり、下痢や腹痛につながると考えられています。この自律神経の乱れは、走る前の緊張や睡眠不足が重なるとさらに強まることもあります。

あわせて読みたい自律神経と腸の関係|夏こそ腸温活

日常生活・走る前・走る中にできる腸ケア(食生活・食べ物)

結論
日常生活では乳酸菌配合食品や食物繊維をしっかり摂ることを意識。前日には消化に時間のかかる食事やアルコールを控える、走る中は高濃度の糖質飲料を避ける、締め付けの強いウェアを避けるといった工夫が、競技中の腸への負担を減らすポイントです。
日常生活・走る前・走る中の腸ケア
タイミング腸ケアのポイント
日常生活ランナー下痢の主な原因である腸漏れに傾かないよう、乳酸菌配合食品や発酵食品、食物繊維などを摂り、健やかな腸内環境・腸壁を維持する
前日脂質の多い食事・アルコール・食物繊維の摂りすぎを控え、消化の良い食事を意識する
当日朝走る3時間前までに食事を済ませ、消化する時間を確保する
走る中高濃度の糖質飲料は避け、少量ずつこまめに水分・糖質を補給する
服装お腹を締め付けすぎないウェア・ベルトを選ぶ
消化の良い和食の食事

また、プロテインを召し上がる方で、ホエイなどでお腹がゴロゴロした経験のある方は、腸が腸漏れしやすい状態になるため、走る前後はソイプロテインで代用するのもおすすめです。

走る前・走った後に腸ストレッチで腸ケア

結論
自律神経の乱れに対しては、腸ストレッチが有効とされています。走る前・走った後それぞれのタイミングに合わせたストレッチで、副交感神経を優位にし、腸の動きを取り戻すサポートになります。
走る前・走った後の腸ストレッチ
タイミングストレッチ内容
走る前(1〜2分)<お腹しぼり>立った状態で肋骨のすぐ下を、親指が背中側にあたるように左右からつかみます。つかんだまま全身を背中側に反らせます(息を吸いながら)。息を吐き出しつつ、手で前へギュッとお腹を絞りながら前屈します。体を倒すことより、手でお腹を絞ることを意識して8回繰り返します。腸を効率よく刺激して血流をよくし、深い呼吸で肺のウォーミングアップにもなります
走った後(3〜5分)仰向けになり、深呼吸に合わせてお腹を時計回りに優しくマッサージし、副交感神経(腸に有利な環境)を優位にする
就寝前膝を抱えて腰を丸めるポーズで数呼吸キープし、1日の緊張をほぐしてから眠りにつく

走る前後のルーティンに、ぜひ腸ストレッチを取り入れてみてください。監修医の小林弘幸先生の著書では、そのほかにも腸への刺激や自律神経を整えるストレッチが数多く紹介されています。

こんなランナーほど腸トラブルが起きやすい

結論
大会本番で調子を崩しやすい方、練習強度を上げた時期に不調が出やすい方は、競技対策だけでなく日頃からの食生活も含めた腸ケアが重要になります。
タイプ別:腸トラブルが起きやすいランナーの特徴
こんな傾向がある方考えられる背景
大会本番になると調子を崩しやすい走る前の緊張により自律神経が乱れやすくなっている可能性があります
練習強度を上げた時期に限って下痢をする運動強度の上昇に伴い、腸への血流低下がより大きくなっている可能性があります
競技中、特定のタイミングでいつもお腹が痛くなる給水・給食のタイミングと腸への負担が重なっている可能性があります
普段から便秘や下痢を繰り返しやすいもともとの腸内環境の乱れが、運動時の負担でより表面化しやすい状態です

改善を感じるまでの期間

結論
腸内環境の改善や腸ストレッチの習慣化は2週間程度、自律神経の安定は1ヶ月程度、競技本番での変化を実感できるのは1〜3ヶ月を目安に、継続することが大切です。
腸ケア習慣の変化の目安
時期期待される変化(目安)
〜2週間乳酸菌や食物繊維を積極的に摂ることで腸内環境が安定する時期。これだけでも練習中・練習後の不調が軽減される方も。走る前後の腸ストレッチが習慣として定着し始める時期
〜1ヶ月自律神経が整いやすくなり、練習後の不調が軽減してくる方も
1〜3ヶ月競技本番でも腸トラブルが起きにくくなったと実感しやすくなる時期
腸ケア習慣

注意点:血便・激しい腹痛は要受診

結論
多くの腸トラブルは一時的なものですが、血便や我慢できないほどの激しい腹痛がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

長距離走の後には、ごく稀に虚血性大腸炎や消化管からの出血が起こることも報告されています※1。「走った後にいつもと違う強い腹痛が続く」「便に血が混じる」といった場合は、単なる運動による一時的な不調ではない可能性があるため、自己判断せずに医療機関に相談してください。

また、持病がある方や、腸ストレッチ中に強い痛みを感じる場合は、無理に続けず中止してください。妊娠中の方も、お腹への刺激は事前に医師に相談することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q. 運動中の下痢は誰にでも起こりうるものですか?

はい。持久系の運動をするアスリートの30〜50%が何らかの消化器症状を経験するとされており、特別な体質の方だけに起こる現象ではありません。

Q. 腸ストレッチは走る当日にも行ってよいですか?

軽いひねり運動程度であれば問題ないとされていますが、強い刺激を伴うストレッチは避け、走る前は体を目覚めさせる軽いものにとどめることをおすすめします。

Q. 水分の摂りすぎも腸トラブルの原因になりますか?

はい。高濃度の糖質飲料や一度に大量の水分を摂ることは、かえって腸への負担になることがあるとされています。少量をこまめに摂ることがポイントです。

Q. 自律神経を整えるには腸ストレッチ以外に何が有効ですか?

深呼吸や十分な睡眠、走る前の過度な緊張を和らげるルーティンづくりも、自律神経を整えるうえで役立つとされています。

Q. どのくらい続ければ改善を感じられますか?

腸ストレッチの習慣化は2週間程度、自律神経の安定は1ヶ月程度、走る本番での変化の実感は1〜3ヶ月を目安に継続することをおすすめします。

Q. 初心者ランナーでも腸トラブルは起きますか?

はい。運動強度や距離に関わらず起こりうるものです。特に練習強度を急に上げた時期は、腸への血流低下が大きくなりやすいため注意が必要です。

まとめ

結論
ランナーの腸トラブルは、血流の低下による腸漏れ傾向・振動と腹圧・自律神経の乱れという3つの要因が重なって起こる、体の自然な反応です。食事の工夫や競技中のケアに加えて、DNRが提案する腸ストレッチで自律神経を整える習慣を取り入れることが、腸トラブルに悩まされにくい体づくりにつながります。

「競技中にお腹が痛くなるのは自分だけ」と感じている方も多いかもしれませんが、実際には多くのランナーが同じ悩みを抱えています。血流・振動・自律神経という3つの原因を理解し、食事の工夫とあわせて腸ストレッチを習慣にすることで、腸トラブルに悩まされにくい体づくりを目指しましょう。

あわせて読みたい腸壁と栄養吸収の関係|腸漏れとは?腸壁ケアの基礎 あわせて読みたい腸活とダイエット|食べないダイエットはなぜリバウンドするのか あわせて読みたい夏こそ腸活、腸温活のすすめ もっと腸美容を知る腸美容ラボ(腸活コラム一覧)

参考文献:※1 de Oliveira EP, Burini RC, Jeukendrup A. Gastrointestinal complaints during exercise: prevalence, etiology, and nutritional recommendations. Sports Med. 2014;44(Suppl 1):S79-85./※2 Jeukendrup AE, et al. Relationship between gastro-intestinal complaints and endotoxaemia, cytokine release and the acute-phase reaction during and after a long-distance triathlon. Clin Sci (Lond). 2000;98:47-55./※3 Qamar MI, Read AE. Effects of exercise on mesenteric blood flow in man. Gut. 1987;28(5):583-587./※4 Peters HP, et al. Gastrointestinal symptoms in long-distance runners, cyclists, and triathletes. Am J Gastroenterol. 1999;94(6):1570-1581.